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もうだめみたい。
『で、でも、衣服の色と髪の色はまた別の話です。この国でも、大陸をふたつに分けた、忌まわしい逸話は語り継がれているのでしょう?』
ダインスレイヴ様から僅かに目を逸らし、私は口早にまくし立てる。
『国境の中心部、ディースの土地で暮らしていた乙女ノルンは、こんな髪色に変わってしまって……それをきっかけに、人々の日々の営みに混沌が』
いつになく言葉が止まらない私の唇。
しかし、それを彼はごつごつした親指で撫でながら、そっと塞ぐのだった。
『国民ひとりひとりがどう思うか、それは私にも定かではない。しかし私は君に、この命の終わる時まで、伴侶として共にいて欲しい。どうか何事にも屈しない勇気を、この私に』
『あ、頬ずり、くすぐったいですっ……』
なんだかもう、本当に犬みたい!
『ありったけのマドンナの加護をくれ』
戸惑う私を目を細めて見つめてくる。この髪に大きな手で触れながら。
『私なんかが、あなたに勇気を与えることができるのですか……?』
『もちろん。古来から戦士は、出陣前にルリジサの花をワインに浮かべ、勇気を奮い立たせたと伝わる。ゲン担ぎなんだと』
『へえ……。え、ワイン!?』
はっと気付いた私に、彼はにっと笑って白い歯を見せた。
『これから出陣前夜は君とワイン風呂で過ごす。衣装も髪飾りも君が求めるものを用意する。月見が必要なら外に浴場を作ろう。なんでも言ってくれ』
『こんな私が……、あなたの役に、立つというのですか……』
私があなたの、心の支えに……?
『立つ立つ!』
また満面の笑顔を見せてくれた。
もう、触れてもいないところがくすぐったい。胸の鼓動が落ち着かない。
心なんてどこにあるのか分からないところがこそばゆくて、
彼の目が見られなくて……モゾモゾしてしまう。
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