6話

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6話

 リベールはボストンバッグ一つを持って、屋敷を出た。  が、何故かシーラが付いて来た。一人で行く予定だったというのにだ。リベールもこれには驚いていた。 「お嬢様一人だけで旅など、危険だらけも良いところです。私も付いて行きます!」 「……けど、シーラ。私にはあなたに払うだけのお金もないわよ?」 「別にそれは構いません、お嬢様に一生付いて行く覚悟はできています」  リベールは苦笑いした。シーラは本気で屋敷を出るらしい。けど、スティが気に掛かる。 「シーラ、スティはその。大丈夫なの?」 「ああ、スティには旦那さんとまだ小さい娘がいますから。家族を置いてはいけないと言っていました。だから、私が代わりに屋敷を出る事にしたんです」 「そう、ならいいのだけど」  リベールは複雑な気持ちながらも頷いた。スティがそう決めたのなら、恨むのも筋違いだ。 「……それにしても、シーラ。これから、どこに行ったらいいのか」 「うーむ、でしたら。辺境の地まで行きますか?」 「そうね、特に行く宛もないしね」  シーラと相談しながら、辻馬車を探した。周りには人がいなくて静寂が漂う。それもそのはず、もう宵の口と言える時刻になっている。暗闇に包まれる中をリベールはシーラと二人で歩く。  しばらくそうしていたら、左前方から一輛(りょう)の馬車がやって来る。簡素な造りだが、貴族のお忍び用だとリベールは勘で分かった。  だが、その馬車はリベール達の姿を見つけたからか、ピタリとすぐ近くに停まった。少し経って、扉が開く。中から、一目で高貴な身分だと分かる男性が降りてきた。 「……間に合ったか」 「……あの?」  訳が分からずにリベールは首を傾げた。男性はシーラやリベールを見て取ると、口を開いた。 「あなたはウォッカ公爵令嬢だね?」 「はあ」 「とりあえず、乗って。自己紹介は後でするよ」  リベールは混乱しながらもシーラと二人で馬車に乗る。夜闇の中、扉が閉められた。静かに馬車は出立したのだった。
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