7人が本棚に入れています
本棚に追加
5話
リベールが応接室にたどり着くと、シーラがノックをした。
家令が返答をしてドアが開けられる。シーラとスティが廊下で待機してリベールだけが入った。
既に両親が揃って待ち構えていた。
「……リベール、久しぶりだな」
「はい、ご無沙汰しています。父上、母上」
「手紙を読んだが、あのエアロ様が他の令嬢と仲良くしているらしいな」
「そうです、なので。私は婚約を解消したいと考えています」
「……ふむ、それは本気で言っているのか?」
リベールがはっきりと頷いたら、父は顔をしかめた。
「そうか、残念だ。リベール、エアロ様と婚約を解消した後は金はくれてやる。すぐにこの屋敷から出て行け」
「……旦那様、それは。いくら何でも酷すぎるのでは?」
「ラフィネは黙っていろ、これは当主である私の決定だ。ただでさえ、リベールは幼い頃からエアロ様を繋ぎ留める努力をしなかった。身から出た錆だな」
ふんと鼻で嗤われて、リベールは無表情で顔を俯けた。涙は不思議と出てこない。
「……分かりました、父上。いえ、ウォッカ公爵。私はこれからこの屋敷を出ます。けど、すぐには荷造りができないので。少し、猶予をもらえませんか?」
「よかろう、だったら。三日は猶予をやる。その間に出て行く準備をしておけ」
「はい」
両親もとい、公爵夫妻は立ち上がる。リベールは無言で夫妻が応接室を去って行くのを見送った。
リベールは早速、自室に戻る。ボストンバッグをクローゼットから引っ張り出す。ドレスを三着程、詰め込んだ。後は肌着類など着替えに細々した生活用品、持てるだけの宝飾品を入れた。動きやすく、一人で脱ぎ着ができるワンピースも何着か入れる。
こんな物かと思いながら、辺りを見回した。鏡台がふと目につく。近寄り、引き出しを開けた。中にはエアロから贈られたペンダントが二つ仕舞われている。一つはシンプルな銀の鎖にエアロの瞳と同じ、アクアマリンの宝石が菱形にカットされ、あしらわれた物だ。
もう一つはリベールの瞳と同じガーネットの宝石があしらわれた金の鎖の豪奢な物だった。リベールは金の鎖の方を身に付ける。銀の鎖の方はボストンバッグに仕舞い込んだのだった。
最初のコメントを投稿しよう!