僕を砕く

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 おい仇餓鬼(あだがき)。仇餓鬼くん? 聞こえてるでしょ仇餓鬼? こっち向きなさいよ。  などと声をかけると、仇餓鬼。こと、香坂(こうさか)は、すごい形相で振り返り睨んで「黙れクソアマ」と唸るように声をこぼした。声の主である婦貴子(ふきこ)は、少しゆらゆらと不思議に揺れながら、別にあなたのことを呼んだわけじゃないんだけど・と、くつくつ笑っている。「ねぇ仇餓鬼」 「その本面白い?」 「黙れ」 「それ何語なの?」 「喉つぶすぞ」 「やれるもんならやってごらんなさい。仇餓鬼、この本借りたいんだけど」 「仇餓鬼って呼ぶんじゃねぇっつってんだろ」  静かな図書室では、暖房の小さな風音が、よく耳に届く。 人柄とは裏腹な、すこやかに通る香坂の言葉がえらく染み渡り、教室を這うように聞こえた。が。 「いやよ。だってなんか可愛いんだもん」
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