僕を砕く

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 婦貴子の胸ぐらをつかみ、そのまま立ち上がらせると壁際に追い込んで叩きつけた。衝撃で少し咽せたが、婦貴子は目を伏せて黙っているだけ。 「俺みてぇなクズのどこが可愛いんだ!?」  簡潔に述べてみろよ、此処で、今すぐ。鉄線がぎりぎりと音を立てて這い回るような想いの憤怒から、荒ぶった香坂は最後に呼吸を必死に整えようとしていた。──香坂のその要求の言葉の後、静寂が流れる。婦貴子は初めて香坂の前で〝無表情という表情〟を見せたが。口元をゆるめ、顔をあげて眉をひそめて苦笑した。 「今のあなた、格好良いわよ。」  ──。まさに、瞠目。泣きそうな顔と驚いた顔を一度の表情に表し、婦貴子の制服から。やがて。手を放す。いそいそと制服の乱れを直し、婦貴子は黙っていたが、やはり笑っているだけで。  微笑んで、いるだけで。……
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