僕を砕く

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 ふふ、と笑って婦貴子は毒気のない笑顔を浮かべてそう返してしまう。香坂は嫌そうに睨んでいたが、舌打ちをして彼女が差し出している恋愛小説と図書カードを手荒く掴む。パソコンを立ち上げ、本とカードのバーコードを読みとると、手早く鍵盤で何かしらの音色を鳴らすかのように、キーボードを叩いて情報を入力する。婦貴子は満足げに見つめ、カウンターに少しだけ腰かけ体重を預けて鼻歌をうたうと、音を外すくせに歌うなと言われて「いやよ」と言い返して笑っていた。また、鼻歌をうたう。  図書室のカウンターで、借りにくる生徒も少ない、この放課後の図書室の空間と時間は、香坂お気に入りのものだった。しかし、最近転校してきたという一つ上の婦貴子によってそれは、ことごとく ぶち壊されている。喋っていないと落ち着かないと言い、仇餓鬼としか呼びたくないと言い、何かと香坂に絡むということで落ち着いて読書も出来やしない。イライラしてばかりで、どんなことを言ってもいつも笑って流してしまう彼女を、心の底から鬱陶しく思っていた。 「おらよ」 「ありがと」
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