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本とカードを突きだす。それを色白くすこやかな色の手で受け取ると、婦貴子はいつものようにカウンターすぐ傍の机の椅子を引き、座って本に目を通しだす。横目で見つめていたが、香坂は自分の読書に戻りだす。が、十分後。
「ねぇ仇餓鬼、この本のヒロインあなたに似てるわ」
「あ? 何わいたこと言ってんだ」
「仇娘って呼ばれてるんだって。仇餓鬼のあなたに似てるね」
「だから呼ぶなっつってんだろ。気安く声かけんな」
「じゃあ返事しなければいいじゃない」
「アンタがしつけぇーからだろ!」
わたしは仇娘じゃなくて、喋らないと死ぬ女なの。あなたが他人の絶望するまでに至る、苦しむ顔を見ることが出来ないと死ぬ男であると同時に。──人柄を模範生として演じながら、裏ではとんでもなく恨みをかってそれを楽しんでいる香坂だ。だから、それを知っている婦貴子は仇餓鬼と呼んでいる。
愉快そうに笑って再び本に向かいだす彼女に、なんでこんなのが俺に付き纏うんだと嫌々感じて、読書に戻る。が、やはり十分後。
「ねぇ仇餓鬼、この本のヒロインやっぱりあなたに似てるわ」
「……」
「心の中はすごく純情なんだって。悪ぶってるみたい」
「……」
「可愛い人ね。あなたそっくり。恋しちゃいそう」
「……は?」
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