僕を砕く

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「アンタが言うと説得力があるな」  それはどうも。婦貴子は口元をあげ、揃って読書を続けていると図書室に女子生徒が入ってくる。おもむろに香坂を見ると、彼は既に姿勢を正して綺麗な笑顔で愛想よく挨拶をしていた。横目で見つめるだけで、婦貴子はただ読書に戻るだけで。  貸し出しをするとき、女子生徒と香坂は好きな作家の話しで盛り上がっていた。綺麗な笑顔は一切崩れることがない。女子生徒もその笑顔になんの疑念も抱いていないようだった。横目で見つめるだけで、婦貴子はただ読書に戻るだけで。  女子生徒が、またね香坂くん。そう言って手をひらつかせて図書室を出ていくと、香坂は暫く姿勢を正したままだったが、扉の向こうの靴音が完全に失せると少し姿勢を崩して頬杖をつき、別に置いてあった恋愛小説に目を通しだした。読む、というより、ただ目を通すという読み方。字を追うだけ、というただの行動でしかない。横目で見つめるだけで、婦貴子はただ読書に戻るだけで。何の指摘もしない。  六分ほど沈黙が続くと、おい。と呼ばれて婦貴子は本を読みながら返事をする。「何、仇餓鬼」 「お前、舐めてんのか」
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