4人が本棚に入れています
本棚に追加
低い唸るような声は、先ほどの女子生徒との会話からは、想像も出来ない柄の悪さが浮き彫りになっていた。婦貴子は本を読みながら返事をする。「何を?」。香坂は舌打ちをし、本を読み終えたようでそっと閉じて席を立ち、カウンターから出て本棚へ歩み寄りながら続ける。
「俺をだよ」
「ううん? 何も舐めてなんていないよ」
「からかってんのか」
「いやね。からかうこともしてない」
本を丁寧に戻すと、香坂はずかずかと詰め寄って婦貴子の着いている席の机を叩いた。そして手を付きつけながら、読書を続ける婦貴子の顔を覗き込んで言う。「馬鹿にしてんだろ」
「してないわ。というより、そんなことする必要ある? 今いいところだから、ちょっと静かにしててね。情事シーンなの」
「……チ」
諦めたようで、香坂は舌打ちをもう一度するとカウンターへ戻った。そして婦貴子が今読んでいる、一昨日自分が読んでいた本の作家の別の作品をカバンから取り出し、辞書もなしに読み始める。婦貴子はちらりと見た後、越えには出さず・フフ。と笑い、読書へ戻る。
「可愛い人」
最初のコメントを投稿しよう!