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『溜息を吐く貴婦人』
私のより一回りも大きな苺。
それが彼女という人間を象徴していた。
「はあ……」
目の前のショートケーキを眺めながら、今日も深い溜息を吐く。
隣の庭で優雅に紅茶を飲んでいる彼女は、私にないものを持っている。
足元でぐうすか寝息を立てているこの子だってそう。同じゴールデンレトリバーなのに、彼女が飼っているのは血統書付き。うちの子と違って、今も凛々しい顔でお座りをしている。
きらり。彼女の胸元のブローチが、日曜の昼下がりの太陽を反射する。レッドダイヤモンド、世界に数十個しかない超高級品。燃えるようなその赤が、彼女によく似合っている。
私の胸元で、淡いピンクダイヤモンドが遠慮がちに輝いた。これだって夫に無理を言って買ってもらい、当時は飛び跳ねて喜んだのに。彼女の前ではおもちゃのブローチと変わらない。
数年前に買った高級ティーセットだって、彼女が持っているそれは最新デザインだ。
いつだってそう。彼女は私よりちょっと良いものを手にするの。ちょっと良いケーキ、ちょっと良い犬、ちょっと良い宝石、ちょっと良いカップ……
『あと一個どこだろう?』
『あ、これじゃない? ブローチの色!』
『それはさっき見つけたよ』
『え~、じゃあどれ~?』
口元よ、と心の中で呟く。
私の口角は下がっていて、彼女の口角は上がっているでしょう?
「はあ……」
間違いだらけの庭を眺めて、また一つ大きな溜息を吐いた。
(了)
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