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レイは涙ながらに語った。
「あなたは憶えていないかもしれないけど、意地悪な男の子たちを懲らしめてくれたでしょう。悪さをされてた女の子たちは、おかげで助かったのよ……みんなあなたを怖がってお礼もせずにいるけど、わたしは……すっごくかっこいいと思った」
「え……あぁ……?」
「ずっと仲良くなりたかったけど、昼のあなたは忙しいでしょう……? だから、今、来たの……」
「う、んん……」
動揺のあまり、ヴァネッサの口からは意味のない言葉しか出てこない。
ただ、わが身に降りかかる火の粉を払っただけだ。
はなから感謝など求めていないし、好意を寄せられても迷惑だ。
そう思うのに、ヴァネッサはレイを追い払うことができなかった。
それどころか、鈴が震えるような声を、もっと聞いていたいとさえ思う。
レイは言った。
「今のことも、そうだわ。わたしを助けてくれてありがとう。ヴァネッサ」
潤んだ青い瞳にまっすぐ見つめられると、顔が自然と伏せてしまう。
頬が火照っていた。
夏の日差しに焼かれた時でさえ、こんなに熱くはならない。
ヴァネッサは痒くなってきた頭をガシガシと掻きむしった。
「べつに……あたしは、なにも……」
やっとのことで、か細い声を返せた。
恩を着せて金でもせびってやればいい。
ずる賢く立ち回ろうとしても、いざレイに向き直ると、難しいことをなにも考えられなくなってしまう。
レイに好かれている。
こんな天使みたいに清らかで綺麗な女の子が、小汚い自分に感謝していて、好きだと言っている。
そう思うと、踏みしめていた地面から、足がふわふわと浮き上がる心地がした。
とにかく落ち着かなくて、この場から逃げ出したくてたまらない。
「わ、わかったから、帰れよ……もう……」
このままでは気がどうかしそうだ。
ヴァネッサが声を振り絞って命令すると、レイは頬の涙をぬぐってうつむいた。
「……はい。急に押しかけて、ごめんなさい」
雨に打たれた花のような横顔に、ヴァネッサの胸は張り裂けそうなほど痛んだ。
うなだれて去って行こうとするレイを、ヴァネッサは「待って」と引き留めた。
我ながら悲鳴のような声だった。
ヴァネッサは咳払いしてランプを掴んだ。
「送って行ってやる。……夜道で転ばれて、怪我でもされたら迷惑なんだよ、ほんとに、あんたみたいな子が、来るな。こんなところに……」
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