4.馬小屋の少女たち

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 レイは涙ながらに語った。 「あなたは憶えていないかもしれないけど、意地悪な男の子たちを懲らしめてくれたでしょう。悪さをされてた女の子たちは、おかげで助かったのよ……みんなあなたを怖がってお礼もせずにいるけど、わたしは……すっごくかっこいいと思った」 「え……あぁ……?」 「ずっと仲良くなりたかったけど、昼のあなたは忙しいでしょう……? だから、今、来たの……」 「う、んん……」  動揺のあまり、ヴァネッサの口からは意味のない言葉しか出てこない。  ただ、わが身に降りかかる火の粉を払っただけだ。  はなから感謝など求めていないし、好意を寄せられても迷惑だ。  そう思うのに、ヴァネッサはレイを追い払うことができなかった。  それどころか、鈴が震えるような声を、もっと聞いていたいとさえ思う。  レイは言った。 「今のことも、そうだわ。わたしを助けてくれてありがとう。ヴァネッサ」  潤んだ青い瞳にまっすぐ見つめられると、顔が自然と伏せてしまう。  頬が火照っていた。  夏の日差しに焼かれた時でさえ、こんなに熱くはならない。  ヴァネッサは痒くなってきた頭をガシガシと掻きむしった。 「べつに……あたしは、なにも……」  やっとのことで、か細い声を返せた。  恩を着せて金でもせびってやればいい。  ずる賢く立ち回ろうとしても、いざレイに向き直ると、難しいことをなにも考えられなくなってしまう。  レイに好かれている。  こんな天使みたいに清らかで綺麗な女の子が、小汚い自分に感謝していて、好きだと言っている。  そう思うと、踏みしめていた地面から、足がふわふわと浮き上がる心地がした。  とにかく落ち着かなくて、この場から逃げ出したくてたまらない。 「わ、わかったから、帰れよ……もう……」  このままでは気がどうかしそうだ。  ヴァネッサが声を振り絞って命令すると、レイは頬の涙をぬぐってうつむいた。 「……はい。急に押しかけて、ごめんなさい」  雨に打たれた花のような横顔に、ヴァネッサの胸は張り裂けそうなほど痛んだ。  うなだれて去って行こうとするレイを、ヴァネッサは「待って」と引き留めた。  我ながら悲鳴のような声だった。  ヴァネッサは咳払いしてランプを掴んだ。 「送って行ってやる。……夜道で転ばれて、怪我でもされたら迷惑なんだよ、ほんとに、あんたみたいな子が、来るな。こんなところに……」
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