ほんの少しの光

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ほんの少しの光

 猫のサーシャは利鎌の月の夜、飼い主のサナさんの隙を見て、玄関からするりと抜けだした。  満月ではいけない。  ほんの少しの月の光が必要なのだった。  飼い主のサナさんは、今日もずっと泣いていた。  サーシャが老衰で亡くなってからというもの、表にもいかない。  だからサーシャも外に出られなかった。  実態があるわけではないのに、不思議なものだ。生きている時に一度も外に出たことの無かったサーシャは、死んでもどうやったら外に出られるのか分からなかったのだ。  唯一、お届け物が来たときに、少しだけお届け物の人の足元にすりすりする時に、玄関からはほんの少し外に出たことがあった。  サーシャは自分が死んでしまって、サナさんがずっと泣いているのにも困っていた。これでは、サナさんも体を壊してしまう。  ようやく、夜にお届け物が来たとき、サーシャは外に出ることができた。  なんで、鎌の様に細い月の夜じゃないといけないのかはわからなかったが、とにかく、そんな風に感じたのだ。  サーシャは急いで外に出て、細い細い、利鎌の月(とがまのつき)を見上げた。  すると、ぼんやりとした白い猫の影との遭遇。  そこで、サーシャはようやく事情がのみこめた。  明るすぎると、ぼんやりした白い光は見えず、迎えにやってきてくれても、わからない。新月だと、真っ暗すぎて、猫だとしても足元も見えない。  少しの明かりがあれば目が見える猫ならではの、お空からのお迎えの方法だったのだ。  お迎えの猫に連れられ、サーシャは空に上った。  そうすれば、虹の橋まで行って、サナさんを待っていればいい。  サーシャが最後に振り返った時には、サナさんは泣き疲れて、サーシャの写真の前で眠っていた。  サナさんの頭にサーシャは語りかけた。 『私はサナさんのおかげで沢山の年月を一緒に楽しく過ごせて幸せでしたよ。生きられる年齢一杯に生きたのです。そんなに悲しまないで。ちゃんとお空で待っているから。』  サナさんは次の朝、目が覚めた時には、少し泣かずに過ごせた。  少しずつ元気になって、ご飯も食べられるようになった。  サーシャは安心して、ようやく虹の橋のたもとで自分も眠りについた。  仲の良い猫とお別れしなければいけない人たち。  利鎌の月の夜、ちゃんと猫の魂を送り出してあげてね。  猫はちゃんとあなたを待っているから。 【了】  
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