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その日は、よく晴れた日だった。しかし、私の心はどんよりと重かった。今朝方上司に伝えられたのだ。豊太郎が免職されたと。理由は恋にうつつを抜かし、本来の目的を果たしていないためだと。そんな馬鹿な。私は思った。あの真面目で、なんの目的も持たずに生きているようなやつなのにと。これは何かの間違いだ。恐らく、彼に嫉妬している誰かが仕組んだ罠なのではないかと。豊太郎はその優秀さが故に人から覚えのない恨みや妬みを買うことが多かった。そのせいか、よくわからない言いがかりや因縁をつけられていた。まあ、豊太郎は気づかなかったみたいだったので意味はなかったが……。彼は変なところで鈍感なのだ。それは留学のときも同じだった。明らかに上司の嫌がらせに基づいて決められている。それを知って知らずか、彼は素直に頷き旅立っていった。まあ、上司の命には逆らえないから仕方がないが……。それに留学することは自分のためになる。彼自身のためにはなるのだ。だから私はとかくとは言わなかったが、今思うと忠告すればよかったのかもしれない。今となっては、後の祭りだが。しかし、豊太郎をあの地に留めておくには勿体無い人材だ。どうにかできないものか……。
ああ、そういえばあの手が残っているな。私は彼に仕事を与えることにした。
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