私の友人

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ドイツで再会した豊太郎は以前より痩せているようだったが、顔色は良かった。彼は色々聞きたそうだったし、私も色々問いたかったが、今は上官が先だ。私は些か慌て気味で上官のもとに案内した。上官は彼にドイツ語の文書を翻訳する仕事を与えた。豊太郎は文書を受け取ると部屋から出て行こうとした。そんな彼を私は呼び止め、食事に誘った。食事の席で私は先ほど聞けなかったことを立て続けに問うた。豊太郎は嫌な顔もせず、答えてくれた。そして、彼の間に起きた不幸な出来事や現状、気持ちを知り私は彼の心が彷徨っていることに気づいた。豊太郎は決められないのだ。その女を取るのか、出世を取るのかを。私は少し考えた後、彼にささやかな助言をすることにした。 「君がどう思っているのかは知らないが、私が思うにその少女との関係は断つべきだと思うよ。君の障害にはなっても、良くはならないからね。君の才能がこの地で埋もれてしまうのは勿体無い。天方伯はまだ君を利用しようとしか考えてない。しかし、君が見せる結果次第では再び官職に就ける可能性が高くなるんだよ。そして、君の一番の弱さは自分の意思だ。もっと強い心を持った方が良い。少なくとも僕はそう思うよ。」 彼は静かに頷いた。  驚いたことに、翻訳は一夜で仕上がったようだ。早いだろうとは思っていたが、予想以上だ。上官も驚いていた。  こうして、彼の通ってくる日々が続いた。上官も初めの頃こそは、要件だけ伝えていたが、近頃では意見を尋ねたり、雑談もを交えるようになった。親友としては嬉しい限りである。是非ともこの調子で認められてほしい。
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