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移住してきた最初の頃は身分を隠していたらしくて、元騎士団長なだけあって腕っぷしが強くて強面な父さんと、お金を使い方も知らない世間知らずな隣国の元お姫様な母さんはかなり異質に思われていて、誰も近寄ったり話しかけたりしようとしなかったらしい。
二人が村はずれの空き家を買い取って住み始めて半年した頃、周囲からの対応は劇的に変化した。
『妻が具合が悪くて吐いて倒れてしまった。どうしたらいいか教えて欲しい』
気を失った母さんを背負って村へとやってきた父さんの顔色は、倒れた母さんよりも真っ青で今にも倒れてしまいそうだったと後々俺の両親を助けてくれた村の人から話を聞いた。
『今村にいる医者を呼んだから奥さんをここに寝かせてやりな。そして奥さんよりも顔色が危ないアンタはここに座りな』
二人の様子を見た村の人は、自分の家へと二人を案内して寝室に寝かせたり椅子に座らせたりして倒れないようにしてから医者を呼んでくれた。
『つ、妻は、エリーシャはどこが悪いんですか!?』
横たわる妻を見てから医者に必死な形相で詰め寄る元騎士団長に、医者が『ひいっ』と怯える。
『アンタ、先生を脅すんなら部屋から出てってもらうよ』
二人を迎え入れてくれた村人が元騎士団長に負けない勢いでたしなめる。
『す、すまない…………』
『先生、大人しくなったみたいだから話してやっておくれ。私が聞かない方がいいなら部屋の外にいるけど、どうした方がいいんだい?』
重病なら家族しか聞かない方がいいだろう? という優しさが含まれた言葉に、元騎士団長がグッと何かをこらえるように固く拳を握りしめる。
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