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『それまではどこで住めば……』
『ここに決まってるだろう? 料理もできないアンタと、世間知らずの身重な奥さんの二人でやっていけるとでも思ってるなら考えを改めな』
そして俺の父に唯一反論する機会も与えず、ビシビシと的確に物事を進める器も人間もデカくてカッコイイこの村人はハルナという異世界転生者なのだが、俺がその事実を知るのはもっとずっと後の話だ。
そんな親切な村人のハルナのおかげで、父さんは色々な料理を覚えて家に戻ることができて、それから数か月後に俺の兄となる人物が無事に生まれた。めでたしめでたしというわけだ。
ちなみに俺の兄は父の影響を受けて騎士見習いとなって大きな町で働いているので、一年に数回しか会えない。俺が拾われたのはちょうど兄が町に戻る時の見送りの帰りだったらしい。後から考えると何とも運命を感じる出会いだった。
***
「…………ル! エル!」
ルーカスが俺を呼んでいる。
「どうかしたのか?」
「どうかしたのか? じゃないってば。立ち止まって何か考えて自分の世界に入るとエルはすぐ俺のこと忘れちゃうんだから……」
「俺がルーのこと忘れるわけないだろ」
手で頭を撫でれば素直に撫でられる幼馴染みに、カッコよくなっても昔の可愛らしさの片鱗があるように思う。
「訓練所の人たちは話しかけてきても大丈夫なんだろ?」
話題を戻してルーカスのことを尋ねれば、自分に興味が移ったのが嬉しいのかルーカスが笑う。
「あの人たちは訓練に必要なことしか話しかけてこないから」
(それってコミュニケーション不足なのでは?)
そう思うが構われるのが苦手なルーカスが訓練所で過ごしやすいならそれでいいかとも思ったりする。
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