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「クリスさんの手が空いた時に時々。訓練所だけじゃ全然足りないから」
クリスというのは俺の父さんの名前だ。自分の母親は呼び捨てにするのに俺の父さんはさんづけって、どういうことなんだろうかとは思わなくもないが、それはルーカスの中で身内以外はさんづけでとかそういう独自ルールがあるのかもしれない。
「訓練所だけじゃ全然足りないって、何をそんなに急いでるんだ? 手にできた豆が潰れて血まみれだった時があったの知ってるんだからな」
「豆も血まみれなのなんともない。潰れて剣だこができたって強さには関係ないし、クリスさんと対等にやり合いたいんだ」
グッと右手を握りしめるルーカス。
「言っとくけど、俺の父さんは前線から退いたって弱くないからな」
ルーカスが俺のことをまだにーちぇと呼んでいた頃に俺は父さんと模擬戦をやったことがある。俺は木刀を持ってたけど父さんは子供相手だからと木刀すら持たずに素手だった。
結果は惨敗。全力で何回挑んでも木刀は全くかすりもしないし、気がついたら父さんに頭にチョップされたり、額にデコピンをされただけで後ろに尻もちをついて倒れていた。
そしてその時、俺のやる気は木っ端微塵になって風と一緒に飛んでいった。
『もう絶対に剣なんか持たない!』
木刀を父さんに向かって勢いよく投げて、近くで見ていた母さんに泣きついた。
『かっこよかったけど大人げなさすぎよ』
そう言って母さんが父さんをたしなめている。
『君の前で子供にだろうが負けるわけにはいかない』
スッと父さんが片膝をついたかと思うと母さんの手の甲にチュッとキスをする。
『もう私は姫様じゃないのよ』
それは騎士が主に忠誠を誓ったりするポーズだと母さんが前に教えてくれた。
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