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『おめでとうございます! ソフィアさまには『豊穣の巫女』の素質がありますよ!」
私たちが十二歳頃だっただろうか。両親がお屋敷に呼んだのは、魔力の鑑定士。
この人たちのお仕事は、国中の女児の魔力鑑定。貴族も平民も、孤児も。皆そろってとある年齢になると魔力の鑑定を受ける。
理由は簡単。――国にとって大切な存在を、判別するためだ。
『豊穣の巫女』
それは、この国に繁栄をもたらすと語り継がれている存在。
土、水、火、風、光。自然にある魔力と体内の魔力が連動しており、自然に魔力を送ることが出来る唯一無二の存在。
建国当時からあがめられているというその存在は、必ず国に貢献しなくてはならない。その代わりに、国が高い水準の生活を保障してくれると言う、いわば全女性の憧れの存在だ。
平民でも『豊穣の巫女』だと判明すれば、貴族と結婚することだって可能。玉の輿に乗るには、もってこいの能力。
とまぁ、こんな感じで。『豊穣の巫女』はこの国にとってとても大切な存在で――慈しまれる存在。
はっきりと言えば。ソフィアが『豊穣の巫女』であるということは、どうでもよかった。だって、ソフィアがどうであろうと。私は私。ソフィアはソフィアだから。
……って、思っていたのに。あの日以来、私の運命は変わった。
両親が、誰から見てもわかるほどに、ソフィアを可愛がり始めたから。
ソフィアが「あれが欲しい!」といえば、なんでも与えた。ソフィアが「これがしたい!」と言えば、なんでもさせた。
すると、ソフィアはどんどん調子に乗って、どんどん醜悪な性格になった。傲慢になり、強欲になり。
――貴族令嬢としての評判は地に落ちた。
それでも、男性たちはソフィアに群がった。見た目麗しい貴公子も、筆頭貴族の貴公子も。みんなみんな、ソフィアの婿という立場を欲しがった。
それもまぁ、どうでもいいといえば、どうでもいい。
だって、その頃にはもう、私はソフィアに気を向けることも出来なくなっていた。……彼女が怖くて、たまらなかった。
『当たり前でしょう? お姉さまは、この伯爵家のお荷物なのだから』
ソフィアは、私を召使のように扱った。挙句――私のことを社交界で吹聴したのだ。
――お姉さまは伯爵家のお荷物なの。だって、ひとっつも役に立たないんだもの。
けらけらと笑って、ソフィアはそう言った。私の目の前で、私の目を見て。
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