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次の日の夜、わくわくとした気持ちで浜辺に行く。
月さんは昨日と同じように海を背にして立っていた。
どこか神秘的な光景。
月さんに近づくにつれ、浮かれた気持ちは緊張に変わった。今日は、うまく話せるだろうか。
月さんが俺に気付いて、「こんばんは」と微笑んだ。その表情を見て、鼓動が早くなるのを感じる。
落ち着け。まだ会うのは二回目で、月さんのことは何も知らないのに。
深呼吸して、俺はどうにか挨拶を返した。
「来てくれてよかった。ハルトに、訊きたいことがあるの」
「うん。何でも訊いて」
名前を呼ばれたことがうれしくて、緩みそうになる頬を必死に制す。
月さんはそんな俺の様子を見て少し首を傾げ、それからなにかを差し出した。
「これを、少し前に来た人たちが、置いていったの」
彼女が持っていたのは、ごてごてとカラフルな文字で彩られた袋。手持ち花火の入っていたポリ袋だ。
「これは、なあに?」
訊くまでもなく、どう見てもゴミなのに。からかっているわけでもなく、真剣な目で月さんは訊いていた。やっぱり不思議だと思いながらも、俺は答える。
「それはゴミだ。俺が持ち帰るよ」
「ゴミ?持ち帰って、どうするの?」
「どうするって……捨てる」
ほかにどうするというのだろうか。
「それじゃあ、捨てた後はどうなるの?」
「焼却されるか、リサイクルされて、生まれ変わるとか……?」
改めて聞かれると、ゴミの行先についてあまり考えたことないな、とぼんやり思っていると、突然月さんはぐっと顔を近づけてきたので思わず身を引く。
「これは、生まれ変わることができるの?」
「う、うん」
「そう。そうなんだ。やっぱり人間はすごい」
彼女の瞳は微かに輝いているように見えた。
月さんは、もしかしたら人間じゃないのかもしれない、という考えが頭をよぎる。
ひょっとしたら、月の精霊とか。……いや、そんなわけないか。頭を振って考えを打ち消す。
月さんが人間ではないとして、その正体を知ってしまったら、もう会えない気がしたから。
それよりもと、ポリ袋を見つめている月さんに思い切って提案してみる。
「一緒に、花火やらない?」
「花火?」
「その袋に入っていたものだよ」
「へえ」
「明日、持ってくるよ」と言ったところで、母さんからのスタディーコールが鳴った。
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