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次の日は花火とバケツをもって浜辺に行った。
「火の扱いには注意して。ゴミはきちんと持ち帰ってよ」と口うるさい母さんの言葉に生返事を返して。
いつもの浜辺。月さんはいつものように佇んでいた。
近づいて、今日は俺から声をかける。
「こんばんは」
「こんばんは。それが、花火?」
俺が手に持つ袋を見て、月さんは訊く。
俺はうなずいて袋を開け、月さんに手持ち花火を一本渡す。
それに火をつけると、月さんは「わあ」と声を上げた。
赤、緑、青と色を変える花火。
次に火をつけたのは、パチパチとはじけるもの。
はじめは目を丸くしていた月さんも、今ではその目を輝かせている。
全部で二十本しかないから、あっという間に終わってしまった。
もっと買っておけばよかったなと、少し後悔する。
それでも月さんが「楽しかった」と笑ってくれて、俺もうれしい気持ちになる。
「これは、生まれ変わる?」
ふと水を張ったバケツに入っている燃えがらを見て、月さんはつぶやいた。
「焼却されるだけで、リサイクルはされないと思う」
「そうなの。花火は、儚いんだね」
月さんのどこか大人びた表情にドキドキしながら、「そうだね」と返す。それから思い切って言う。
「今度のお祭りでも花火が上がるんだ。だから、よかったら、その。一緒に行きませんか」
月さんはきょとんとしていた。
早口で、最後は声がかすれてしまったから、聞き取れなかっただろうか。恥ずかしさに視線を泳がせながら、頬を掻く。
「えっと……」
「お祭り?」
「うん」
「そう」
月さんは目を伏せて、ささやくように言葉を続ける。
「ごめんなさい。興味はあるけれど、行かれない」
「そっか……」
はっきりと「行かれない」と断られてしまったことに軽くショックを受けたが、月さんにも事情があるのだろう。
仕方ない、とゴミの入ったバケツを持つ。
「じゃあ、今日はもう帰るよ」
母さんから電話が来る前に。
「うん。楽しかった。ありがとう」
微笑み手を振る月さんに、俺も手を振って別れた。
家に帰り、自室に入ってシュウに連絡をする。
『祭りに誘ったけど、断られた。俺も行かないから、彼女と楽しんでな』
ベッドに大の字に寝転んでクーラーの風で涼んでいると、返信が来た。
『お前も来い』
『彼女がいるだろ』
『いいから、来い』
『なんでだよ』
既読にはなったが、返信はなかった。既読スルーか。
「なんでだよ」
と俺は声に出していた。
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