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世の中の流れの中、どうにもならない事も有ったのだろう。
世に放たれた禍ツ神の討伐により多くの術者が失われ、押し寄せる近代化の波によって呪術自体が廃れ、強い力を持つ術者はもはや絶滅危惧だ。
世を惑わすものとして陰陽道の存在を世の中から隠したかった政府の意向による禁止令、そして責任の訴追を恐れて開けてしまった門の存在を秘匿した者達のせいで陰陽道という呪法自体その大半が失われてしまった。
「だけどな、このままで良いわけねえんだよ。俺達の家みたいにいつまでも役目に縛られ続けたり、運命の名のもとに誰かが未来を決めつけられるなんて、おかしいだろう。だから俺はどうにかしてこの門を世の中から無くしたい。閉じるんじゃない、門自体を無くすんだ。そのために俺や宮内庁は動いてる。陰陽道自体は廃れちまったが、現代には情報網がある。これまで秘匿され続けてきた魔術や呪術が、その手掛かりが、僅かずつでもネットの海に漏れ出てるんだ。掻き集めて、寄せ集めりゃ何かの手がかりくらいにはなるだろうさ」
長い歴史の中には、夢を諦めて仕方なく役目を果たした人間だって何人も居ただろう。
意に沿わない相手と番わされた者もあったのかもしれない。
それを思う時、龍也は己の身体に印が出なかったのは自らの使命が門を失くす事に尽力するためだったのではないかと感じるのだ。
幸いにして龍也には呪術の素質があり、天児神社にはこれまで歴代の神職と宮内庁が力を合わせて集めた様々な呪術の記録がある。
更に現代は情報機器も発展している。
ならばこの連綿と続く鎖を断ち切る何かを掴むことも出来るのではないかと、若い彼が息巻くのも当たり前だった。
何よりまだ幼い弟に自由な未来を選ばせてやりたいという気持ちもある。
隠してはいるようだが、虎太郎は小さな頃から乗り物が好きで何かそういった関係の職業に憧れがあるらしい。
龍也は出来ることならばそれを叶えてやりたいと思っているのだ。
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