神の威光と言霊と

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「あ……」 「ピンと来たか? 草薙の剣は熱田神宮、八咫鏡は伊勢神宮、八尺瓊勾玉は皇居の剣璽の間。神社ってのは信仰を集めるための場所だろ。皇居も、天皇家が人間宣言出した今だって神の末裔として崇めてる奴らも居るんだぜ。ならばそいつ等にとっては皇居は生きた神の(おわ)す座だ」 奈月はそれを聞いて眉を顰めた。 お役目に必要な符術の使い方などは教えられて使えても、信仰や呪術に関する知識は彼女の頭を素通りしてしまう。 おかげで納得のいかないこじつけばかり聞かされている気になる。 「そんな思い込みっていうか、置いてある場所だけで良いの?」 彼女がぷうとむくれた様子で言うと、橘が苦笑いを浮かべた。 「勿論それだけではなくて、その信仰心の一部を集めるための呪術的な仕掛けはしてあるようですよ。詳しくは秘匿事項ですが」 「では……」 「ああ。言霊の力で他の神から力を拝借した神さんの神域で、剣は草薙の剣、影見は八咫鏡、身玉は八尺瓊勾玉、それぞれの威光を借りて強化された力を振るう。だからこそ人の身の振るう力でも、穢れた神である禍ツ神に勝てるわけだ」 全てが借り物の力……しかし当時よりも信仰心が薄れ、神秘や呪術が世の中から遠くなった現代に於いても開いてしまった門を守り続けることが出来ているのは、信仰を集めるための多くの仕掛けによるものだ。 と考えれば、これらの方法を考えた当時の陰陽寮の面々には先見の明が有ったのかも知れないと優は頷いた。
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