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「大きくなったら旅に出るんだ」
垣根の窪みに二人で座って、シルは顔を輝かせてリュイに夢を語った。シルとリュイは、広大な庭の植栽の影にいくつもの「隠れ家」を持っていた。シルの言葉にリュイは目を丸くした。
「旅に!? でも、危ないよ……」
「危ないからかっこいいんだよ!」
「でも……何をしに行くの?」
「人探し。父さまと母さまに聞いたの。ぼくの『本当の』父さまと母さまは別のところにいるって。謎なんだって。魔女かもしれないんだってさ〜!」
ちょっと脅かすつもりだったのに、リュイはますます目を丸くして身を縮めた。シルは急いで謝った。
「シルは、本当のお父様とお母様を探しに行くの?」
「その通り!」
「でも、手がかりはあるの?」
「エスフィヴ様が、手がかりをお持ちなんだって」
「お父様が!?」
「そう。きっと調べてくださるに違いないって。でもエスフィヴ様はお忙しいから、早く大きくなって自分で探しに行かないと」
「ぼくからお父様に、早く調べてくださいって申し上げるよ」
「違う違う! 自分で世界を旅して探すのがいいんだよ! このお屋敷の外、出たことある?」
「何度かあるけど……」
「いいなあ。ぼくはまだない。早く大人になりたいなー」
シルの浮き立った口調につられて、リュイの頬も薔薇色に染まった。二人は「大人になったらやりたいこと」を語り合った。二人にとって「大人になる日」は遥か遠くにぼんやりと霞むまばゆい世界だった。そんな先の話では物足りなくて、「10歳になったらやりたいこと」を数え上げて、顔を見て笑い合った。少年二人の未来は、王国の短い夏の陽射しにきらきらと輝く若葉のようだった。
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