15人が本棚に入れています
本棚に追加
塀の外に吹き荒れる風
執務室を退出したシルは、壁に手をついてずるずるとへたり込んだ。心臓がばくばくと打つ。
この心臓が止まるかもしれない。もう戻れない。
死にたくない、まだ生きたい、と主張して心臓は暴れる。そうではない、人間には命を捨てるべきときがある、とシルは自分の身体を叱りつけた。手足が全部バラバラになったように立ち上がれなかった。
取り返しのつかないことを言った。引き返すことはできない。あとはリュイ、いや、リュヤージュ様のお考え次第。自分の命の行く末は今、リュヤージュ様の手の内にある。シルは長い間、よく磨かれた床を見つめて呆然としていた。
曇りの日が続いた。シルは窓の外、丹念に刈り込まれた庭を歩くリュヤージュを見た。俯いて、後ろで腕を組んで、一歩一歩踏みしめるように歩いている。
広い庭園の周囲を、高い塀が巡っている。そこに正門がある。植物の意匠とカシシーヴ家の紋章で飾られたものだ。外には警備の衛士が立っている。そこに自分は置き去りにされたのだという。その外は森に囲まれている。森を越えた土地がぼんやりと見える。
この塀の内側で人生を過ごした。次に敷地を出るのは、処刑場へ連行されるときだろうか。
そう考えると心臓がヒュッと冷えて、シルは外を眺めるのをやめた。
すごくすごく昔、あの塀の外に出たいと思っていた気がする。時間が記憶にも熱意にも霞をかけてしまった。シルはあと少しで浮上しそうなその記憶をもう一度、丹念に封じ込め、次の仕事に意識を移した。
最初のコメントを投稿しよう!