夜の庭のランタンの灯

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夜の庭のランタンの灯

 夕食が済み、キッチンメイドたちが食器を洗う音の響く時間帯。シルはメイドに「リュヤージュ様が裏口でお待ちです」と告げられた。サッと顔から血の気が引いたのを、不審がられただろうか。  裏口と言っても重厚な扉である。草花と果実が彫り出された、自然の実りに感謝を込めた装飾。カシシーヴ家はこのように、自然に対して謙虚に、人々にも謙虚に、そして博愛の心をもって接してきた。  それが一代で崩れ去る様を見るくらいならば、自分の命と引き換えに……。シルは乾いた唇を舐めた。  裏口の外に、ランタンを二つ持ったリュヤージュが待っていた。その一方がシルに渡された。 「シル。今夜は『リュイ』で頼むよ」  オレンジの()に照らされたリュヤージュの頬は、先日よりも明るい色をしていた。 「きみは勝手だ……リュイ」 「うん。ごめん。僕は自分勝手で愚かな男だ」 「……ごめん。でもきみは勇敢だ」  リュヤージュはくしゃくしゃっとした笑顔を作ったけれど、泣き出しそうなのだとシルには分かった。 「今夜、きみをリュイと呼ぶよ。何の用事かな」 「うん。先に言おう。きみを処刑などしない」  リュヤージュに呼び出された瞬間からずっと、シルの心臓は警鐘のように打っていた。それがふっと楽になり、全身の力が抜けた。くらりと頭から血が下がって、思わず手を額に当てる。リュヤージュが労るようにシルの肩を叩いた。 「すまなかったね、シル」 「いいんだ」  シルにはこの言葉を絞り出すのが精一杯だった。
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