夜の庭のランタンの灯

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 二人はランタンを持って、夜の裏庭へ歩き出した。裏庭は小径と垣根を巡らせた造りで、表の庭より素朴な花々で彩られている。 「僕はずっと間違っていた。間違えっぱなしだ。自分の力不足を認めなければ。伯父に助力を仰ぐよ」  リュヤージュはからりとした声で言った。さあっと吹き抜けた風に低木の葉がそよいだ。  伯父というのは、リュヤージュの亡き母の兄である。現在の関係は親密とは言えないが、カシシーヴ家の庇護者となりうる人選としては正しい。 「それがいい。きみは賢明だ」 「やっと気づいただけだよ。それにネイズもよく動いてくれている」  老執事長の地道な根回しが、カシシーヴ家を支えているのだ。シルは改めてネイズに敬意を感じた。 「リュイ、ティルフェット様も聡明な方だ。頼りにしていいと思う」 「ああ……。確かに。だが妹には悪いことをした。ドレスも揃えていたのに。顔向けができないよ」  ランタンに照らされたリュヤージュの横顔は、伯爵家当主のそれではなく、唯一のきょうだいを案じる兄のやわらかな表情を浮かべていた。 「エスフィヴ様が亡くなった翌朝、ティルフェット様に『兄をよろしく頼みます』と言われたよ。そのお気持ちは変わっていないと思う」 「……そうだったのか。あの子は僕より気丈でしっかりしたところがある。頼みにできる人たち全員に助けを請わなければね」 「ああ」  青年二人の間に沈黙が下りた。裏庭に灯りはなく、二つのランタンが頼りだった。けれど、少年の日々を遊び回って過ごしたこの裏庭だから、二人は迷いなく小径を進んだ。
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