若草の上で「旅」を語ろう

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 リュイは身をかがめ、シルの右手の甲に額を寄せた。それはこの王国において、最大級の敬愛を表現する仕草であった。 「兄さん。……それとも、お兄ちゃん、かな」 「……!」 「シル、僕は一度きみを拒んだ。愚かだった。僕を許してくれ。きみは僕の大切な友人であり、兄弟だ」 「そんな、もったいない振る舞いを……」  確かにリュイの行動は、伯爵として咎められるべきかもしれない。それでも二人の青年の心を繋ぐには、これが必要だったのだ。若く美しい二人は、涙を浮かべて顔を見合わせ、どちらともなく微笑んだ。 「シル。僕も今、人生の旅に直面しているよ。この崩れかけのカシシーヴ家を立て直す、長旅にね。どん底から始めなければ。……シル。立場できみを縛るのはやめたいんだよ。僕たちは、それぞれの旅に出よう」 「それぞれの、旅」 「きっとどちらも険しい旅だ」 「リュイならやり遂げる。僕はその力添えをしたいし、この家を守り抜いたリュイの姿を近くで見たいんだよ」  シルは言い募った。リュイの誠意を受け止めてなお、この青年は外の世界が恐ろしかった。 「ねえ、シル。きみを送り出せるのは、本当に、一生でこの一度きりかもしれないよ。『泥舟から逃がす』という口実がなければね。今だって本心では、僕はきみという友人をそばに置いておきたいんだ」 「僕だって」 「でも、この輝きがきみを呼んでいる」
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