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「シル。それぞれの場所で、それぞれの旅をしよう」
「……うん」
鼻声の返事にリュイは笑って、シルの肩を叩いた。でもリュイもこっそり目尻を拭ったのだった。
「シルメノー。僕の本当の名前」
「ああ。いい名前だ」
「そうかな」
「綴りを書き留めておきたいな」
リュイの一言には名残を惜しむ情が込められていて、シルはまた心臓を掴まれたように苦しくなる。でも今度は、優しく温かい感覚だった。
夜の庭はしんしんと冷え、二人は屋内へ戻った。リュイはシルの部屋の簡素な椅子に座って、シルは持ち物をまとめながら、二人は夜通し語り合った。
「きみが馬に乗れるのは、旅をする上でラッキーだな」
「リュイのおかげでね。『シルと一緒じゃなきゃ練習しない』ってきみがゴネるものだから」
「……そうだったかな!?」
「そうだったよ!」
シルの部屋に、初めて笑いが溢れた。
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