夜の森を抜けて

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夜の森を抜けて

 シルが家に帰ると、若き日の母はくつくつと野菜を煮込み、その香りが家中に漂っていた。少年シルは忙しい一日を母に報告した。リュイと遊んで、それから礼儀作法の練習をしたのだ。母は笑みを浮かべてシルの本日の冒険譚を聞いた。 「ねえ母さま。なぜぼくは父さまにも母さまにも似ていないの?」  幼い好奇心からの質問は、母の明るいブラウンの瞳に影を落とした。 「そうね……。シルが7つになったら話そうと思っていたのだけど」 「あと2ヶ月で誕生日だよ!」 「ええ。そうね。父さまが帰ってきたら話すわ」  そして3人の食卓を囲んでシルの生い立ちが語られた。当時、シルを愛する両親は、息子に最低限のあらましだけを教えた。でも今朝の夢では、すべての事実が両親の口から語られたのだった。
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