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勤勉で穏やかな両親だった。父は執事で母はメイドだった。二人は人生のほとんどを屋敷の敷地内で過ごし、それは二人の両親も、祖父母も、さらにその前の祖先についても同じことだった。
シルを託されたその瞬間、両親に「厄介ごと」という意識がなかったわけではない。だが、シルを腕に抱いた母は目を潤ませて、父に「この子は私たちの子だわ」と言ったのだった。
誰もが認める善良な夫妻に預けられたことで、シルは徐々に屋敷の人々に受け入れられた。
シルの髪が伸びると、それは烏の羽のようにつやのある漆黒だった。瞳も一見すると黒だが、覗き込むと、熟れかけの黒スグリのように赤みを宿した深い紫なのだった。この色彩の妙は成長とともに失われたから、シルの両親はとりわけ懐かしくその美しさを語った。
母が「この子をご覧になって? かわいらしいでしょう?」と満面の笑みで言えば、たちまち人々はシルの異国の顔立ちにも美しさを見出した。
冗談で「これは色男になって女をたぶらかすぞ」と言う者があろうものなら、父はいちいち真面目に抗議した。
このような逸話は両親のお気に入りの思い出だったから、シルは繰り返し聞かされて飽き飽きしたものだ。
シルが拾われてから3ヶ月後に、エスフィヴ伯爵の第一子・リュヤージュが誕生した。それからも伯爵はシルとその両親を気にかけた。使用人一家に対しては過剰なほどの気くばりだった。ご主人様の博愛心を信じたい者もいれば、当然、理由を詮索したがる者もいる。
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