にゃんとにゃんと歓迎会

1/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「まだ家に帰りたくないな~」  むしゃくしゃして道端の石ころをけっとばす。石は転がって、草むらの中に消えていった。  篠原裕は小学六年生。来年、公立の中学校に通うのだが、勉強についていけなかったら大変だと、週に三回塾に通うようになったのだ。今日は塾の帰り道だった。夕方六時を過ぎるようなら、電話をしなくちゃならないけど、今日はひとりで帰りたい気分だった。 「本当、アイツってばイヤな奴だよ」  先週、入ったばかりの同じ学年、同じ男子の桐原陽は、名前に似合わず陰気で不愛想な奴だった。裕がせっかく話しかけても、ぶすっとしてロクに返事もしない。分厚い眼鏡をかけて、黙っている姿は人形のようで嫌だった。 「それなのに、成績優秀ってどういうこと~」  思わず空を仰ぐ。不愛想で陰気でイヤな奴は、塾で百点ばかり取る奴だった。毎回、がんばりましょうの言葉と一緒に返される、五十点以下の裕とはえらい違いだ。 「塾なんか通わなくってもいいんじゃない?」 「友達と一緒に勉強がしたくて」  思わず嫌みを言ったら、陽は顔を伏せてぼそっと答えた。裕には気に食わない答えだった。何が友達だよ。ひとりでできるくせに。成績の悪い俺のことバカにしてるのかと思う。  点数も悪い、塾の人間も嫌い、勉強なんかやりたくもない。それでも、塾帰りにひとりでぶらぶらできるのは嬉しかった。本当は早く帰って来いと怒られているのだけど。  車が通らない住宅街を歩いていると、裕のそばを猫が二三匹、すばしこく通り抜けていった。一体、なんだろうなと猫が行く先を見ると、長く放置されている空き地があった。建物はないが、ぼうぼうの草が生える空き地は、子どもよりも猫や虫たちにとって楽園の地になっている。 「寄り道すると怒られるかな~」  鞄からスマホを取り出すと、六時十分の数字を確認する。まあ、七時までに帰れば大丈夫かなと裕は興味津々、猫の後をつけていった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!