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「……どう、して」  瑠璃は弱々しく呟く。父上は。母上は。無事なのだろうか。  そう、ただいつものように。いつものように昼寝をしていただけだった。  寝ている間に屋敷は変貌してしまった。めらめらと上がる炎が、瑠璃の目に映る。屋敷が燃え上がっている。熱い。 「だれか! だれかいないのか!」  返事はない。いつもなら誰か反応してくれるはずなのに。誰もいないのか。おれを残して、みんな逃げてしまったのか。  逃げたくても逃げられない。畳は焼けてしまっていて、どこにも歩けそうな場所がないのだ。 「いって……」  足がジリジリと焼ける。痛い。瑠璃は足の裏があまりにも痛くて立っていられず、座り込んでしまった。紺の直衣に火が移ってぼうぼうと燃える。  焦げ臭い匂いがする。屋敷の焼ける匂いと、自分の焼ける匂いだ。 「ちちうえ! ははうえ!」  叫ぶように両親を呼ぶ。涙で視界が滲む。返事はなく、代わりに炎が勢いを増しただけだった。  瑠璃は数時間前、父から渡された仕込み刀を握る。  こんなもの、あっても。何一つ、おれは何一つできないまま死ぬのか。何一つ、誰も守れぬまま。  熱い。痛い。熱くて痛い。もう何も、考えられないけど。  こんなところで、死にたくない! 嫌だ! この棒切れについても、何も教えてもらっていないのに!  炎上した柱が倒れてくる。恐怖に目を瞑る。
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