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話していると、目的地に着いた。ここは道から外れた場所なのだが、人が入らない分きのこがよく生えている。ほら、やっぱり。平茸がたくさん生えている。
「瑠璃。ここがおすすめの場所だ。あっちの方で食えそうなの採ってきてくれ」
「わかった!」
三郎が指さした方に瑠璃は歩いていく。草をガサガサとかき分けている。
きのこを採りながら、そういや結構山に入っているけれど、瑠璃と出会ったところにあった滝を見ていないな、と三郎は思う。あの滝は一体なんだったんだろう。水の音も全く聞こえない。
「なー、さぶろー」
瑠璃がこっちに歩いてくる。
「どうしたー?」
「これたべられるのか?」
瑠璃が持ってきたのは黄色くて小さなきのこだった。食用の栗茸に似ているが……。
「これはニガクリタケだな」
「にがくりたけ?」
「そうだ。これは毒きのこだ。戻してきなさい」
「はーい」
瑠璃はささっと戻してきて、三郎の元に戻ってくる。三郎は少し驚く。
「別に瑠璃は瑠璃できのこ探してていいんだぞ。わざわざ俺のところに戻ってこなくても……」
「おれはさぶろうのしごとがみたいんだ」
「新しいことはないぞ」
「べつに、それでいい」
仕方ないな。三郎はもくもくときのこを採っていく。
日が落ちてきた、そんなときだった。なんだか、焦げ臭い匂いがしたのは。
「なぁ、瑠璃」
「ん?」
「なんか……何かが焼ける匂いがしないか?」
「……たしかに」
「一旦戻るか?」
三郎の提案に瑠璃はうん、と頷く。
山を降りていると、焦げ臭い匂いがだんだんと強くなる。かなり広い範囲で何かが燃えている。
「あ、三郎! 瑠璃もいるね!」
山の中腹まで降りたら、店長がいた。三郎と瑠璃の名を呼んで、手を振っている。近くには他の店員もいる。みんな不安そうな顔をしている。
「火事だよ!」
「かじ……」
瑠璃が反応する。ふと町を見下ろすと、火の手がそこまで迫っていた。かなり大きな火事だ。黒い煙があちこちで上がっている。町ごと全て焼けてしまうかもしれない。
三郎は驚愕した。慣れ親しんだこの町が炎に侵食されていく。
「いやー、店の近くが焼けちゃってね。逃げてきたんた。煙草が火元みたいなんだが……」
はぁ、と店長はため息をつく。
「店もこのままじゃ燃えちゃうね」
「……」
何も言わずに、瑠璃は山を降りていく。それも、ものすごい勢いで。
「おい、瑠璃!」
三郎の制止も聞かず、少年は先に行ってしまう。三郎は籠を下ろしながら店長に尋ねる。
「店長、すみません。籠持っててもらえますか? あいつを追いかけます」
「はいよ。気をつけてな!」
三郎は瑠璃を追う。しかし、やはりと言うべきか、瑠璃の足は早く、追いつけない。坂道を転ばないように走るのは厳しいもので、二人の距離は広がっていってしまう。
「瑠璃! 危ないぞ!」
山道が終わり、二人は燃えている町に入る。焼ける匂い。不快な匂い。冬なのに暑い。暑い。めらめらと燃える赤い火が二人を残酷に照らしている。
瑠璃の頭に過去の記憶が蘇る。
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