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目が覚めると、真っ暗な空がそこにあった。どんよりとした曇り空のような。いや、空なのか。それとも、空じゃないのか。瑠璃にはわからなかった。
体を起こす。座り、地面に手を伸ばすと、灰色の地面に触れた瞬間、地面に白い波紋が広がった。
「わっ!?」
瑠璃は驚く。まるで水面のようだ。でも、確かに座っている。立ち上がって辺りを見回す。何もない。暗闇が広がっているだけだった。
地面には瑠璃が映っている。いつもの髪型に、黒髪、茶色の目。うん、屋敷の池で見る自分の姿と全く同じだ。とりあえず、瑠璃はここに存在している。
「だれかいないか……?」
聞いてみても、返事はない。仕方なく瑠璃は歩き出した。特にどこに行くとも決めず。なぜなら、本当に道標となるものが何もないからだ。
地面はひんやりとしていて、やはり足を踏み出すと波紋が広がる。くすぐったくないけど、こそばゆい感じがする。冷たいのが気持ちいい。
しばらく歩いていると、水の音が聞こえてきた。
「やった!」
もしかしたら、誰かいるかもしれない。今の状況を説明できる誰かが。うきうき気分で歩を進めていたら確かに「誰か」はいた。いたのだが。
紺色の龍がいた。瑠璃の直衣と同じ色の龍が。宙に浮いている。
「こ、こんにちは」
怖い、と思って瑠璃は小さめの声で挨拶してみる。
「なんだ、小僧」
低いしゃがれた声だった。龍が、絵巻でしか見たことのない龍がぱくぱくと口を動かしている。
近くには川が流れていて、心なしか寒い。音の正体は川の流れる音だったのか。その川の向こう側に、龍がいた。
「貴様の名はなんだ」
「るり、だ」
「そうか、瑠璃というのか。我輩は紺雨龍という」
「こんさめりゅう、か」
ふん、と鼻を鳴らす紺雨龍。
「我輩の名前はこんなちっぽけな小僧には教えたくないがな。……して、小僧よ。なぜこのようなところにいる?」
「ここは、どこなんだ? まずはそれをおしえてくれないか」
「黄泉だ」
「よ、み……」
紺雨龍は冷酷に告げる。
黄泉というのは、死者の行く世界のことだ。イザナギノミコトとイザナミノミコトの夫婦の神様の話に出てくる舞台である。黄泉の国の食べ物を食べてしまったら出られなくなる、というあの黄泉だ。
瑠璃は驚きはしたが、屋敷での出来事を思い出して納得した。
「おれは……しんだんだな。やかれてしんだんだな」
「ふむ」
紺雨龍は考えるふりをしたのち、川の向こうからできるだけ近づいて瑠璃にこう提案した。
「我輩と契約を交わさないか」
「けいやく? いやだ」
瑠璃は即座に否定する。
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