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「ここからだしてくれ! おれはやりのこしたこともあるし、ちちうえとははうえにだってわかれをいっていないんだ」 「出してやるぞ」 「……うそくさいな」  紺雨龍ははぁ、とため息をつく。 「では、小僧はこの三途の川を渡って死者になりたいのか?」 「それは……」 「我輩は雨龍だから、火事なんてすぐに消しとめてやるぞ」 「……」  おれはもう死者だ。死んでしまった者だ。……それでも、父上と母上にもう一度会えるなら。 「……けいやくする。してやる」 「おぉ、そうかそうか!」  露骨に喜ぶ紺雨龍。そんなに嬉しいのか、と瑠璃は眉をひそめる。 「では、血を分けて欲しい」 「どうやって」 「指を少し切って、こちらに差し出せば良い。我輩が噛んでやってもいいぞ」 「いい。じぶんでやる」  ざり、と爪で右人差し指の腹を傷つける。血がつぅと出てきた。 「どうぞ」 「すまぬ」  紺雨龍は瑠璃の指を舐める。ざらざらとした質感だった。「人の子の血はこんな味がするんだな、思い出した」なんて紺雨龍は独り言を言う。 「契約成立だな」 「ん? あ……ぐ……」  頭が割れるように痛い! 瑠璃はその場にへたり込んでしまう。 「いたい、いたい! ぐあ……!」 「神話生物との契約は痛みを伴うものだからな」 「きいて、っない……! いぃっ……!」  紺雨龍は何を知ったことを、という態度で苦しむ瑠璃を見下ろしている。目をぎゅっと瞑って、瑠璃は痛みに耐える。 「ぐっ……! いつまでつづくんだ!」 「なに、すぐ終わる」  痛みに耐えながらも、目を少し開いて瑠璃は気づいてしまった。自分の髪色が黒から青に変化していることに。 「なんだっ、これっ……! かみのいろが……!」  さらに、瞳は茶から瑠璃へ変わりかけている。絵の具の濁るような変化をしている。ぐるぐるとしていて、気持ち悪い。 「代償だ。龍と契約した者は皆そうなるのだ」 「さいしょにせつめいしろ! っ、いてぇ……!」 「……」  紺雨龍は黙っている。やがて、瑠璃は痛みから解放された。 「そういうのははじめにいうべきだろう」 「まぁ、いいじゃないか。その名に恥じぬ色合いになったな」 「……むぅ」  地面に映る自分の姿を確認する。全然慣れない。真っ青だ。こんな髪色、そして目の色、見たことがない。  いつの間にか紺雨龍は川を渡っていて、瑠璃の傍にいた。 「それと、その仕込み刀。神器にしてやろう。神技(しんぎ)も授けてやる。寄越せ」 「あっ」  瑠璃の腰から勝手に刀を奪い取ると、鉤爪で持ち、何かを唱え始めた。すると、仕込み刀は青く、そしてたまに紺色に光り、静かに元に戻った。 「なにを、したんだ。ちちうえからいただいたたいせつなものなんだぞ!」 「これがあれば、火事から人を守れる。そんな力だ」 「……」 「では、現世に戻るとしようか」  暗闇の世界が光り出す。光が瑠璃を包み込む。
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