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「まぶしっ」
目を閉じる。気づけば、鳥の声がする。葉の擦れる音、風の過ぎていく感覚、そして足の裏にある板……下駄の感触。腰のあたりの、少し重い感じ。いつの間にか仕込み刀が据えられている。
目を開けると、森がそこにはあった。目の前には川が流れており、滝に繋がっている。少し暖かい。春なのか。足元にたんぽぽが咲いていた。
紺雨龍はいない。周りを見渡してみる。山から見下ろしてみる。驚く光景が広がっていた。
所狭しと家が並んでいるのだ。しかも、家はひとつひとつが瑠璃のいた屋敷より随分と小さい。
「なんだ、これ……」
村じゃない。それよりも人の往来が激しい。瑠璃の知っている光景じゃない。
「ちちうえ? ははうえ?」
わかり切っていたことだが返事はない。春風が瑠璃の頬を撫でていく。
時代が変わってしまっていた。もう既に、瑠璃達のような貴族が支配する時代はとうに終わっていた。
瑠璃の頭に血が上る。
「おまえ、だましたな!? おい、こんさめりゅう!」
「両親に会えるとは言っていないだろう。黄泉から出してやると言っただけだ」
「……うるさい」
仕込み刀の辺りから声がする。そうか、ここに宿ったのか。
もう、会えないんだな。両親には。
「やり残したことがあると言っていたのではないか」
「べつに。ちちうえに、しこみがたなについておしえてもらいたかっただけだ。でも、もうちちうえはいないから、いい」
「……そうか。この町は火事が起きやすい。それを食い止めることはしたいと思わないのか? 我輩の力を使えばすぐ鎮火させることができるぞ」
「……わからない」
瑠璃は見続けてきた。この町が燃えては再建し、燃えては再建するのを。それを見ながら木造って儚いなぁと思ったり、石で造ればいいのにと考えたり、助けたいけどこの髪色じゃ驚かれるよなぁと悩んだりしていた。
時には目の前の三途の川を渡ろうかと考えたこともあった。でも、渡ったところでどんな世界になっているのか瑠璃は知らない。両親に会える保証もない。だから、悩んで渡れなかった。
そうして何年、何十年、何百年が過ぎた。季節は移ろい変わってゆく。数えることを諦めたとき。
「僕、こんなところでどうしたの? 家族が心配しちゃうよ」
振り返ると、知らない男性がいたのだ。三郎だった。なんとなく、父に似ている気がした。
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