その参拾八

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その参拾八

「この子に憑いているものを祓ってほしいんです。」 と一枚の写真を渡された。 写真の中央には、かわいい子供が椅子に座っている。 拝見した瞬間、あたりがざわつく。 パチン、パチンとラップ音がする。 「申し訳ございません。無理です。」 あまり断らない私だが、この時ばかりは断った。 「そんな、いろんな所に行ってお願いしても、断られて、ここなら祓ってくれると聞いて来たんです。どうか」 「はぁ。」 写真に視線を戻す。 ぶわり、と、鳥肌が総毛立つ。 かわいい笑顔だ。 無邪気な笑顔の子供の写真。 だが、ひどく恐ろしい。 「申し訳ございません。やはり、無理です。ごめんなさい。私の手には負えません。」 「皆さん、そう言うんですの。」 ため息をはかれた。 「すみません。」 「なんでも祓うと、噂でしたのに。」 非難めいた言葉を言われるが、矜持よりも命だ。 「それは、祓うのは無理かと。」 「本当に無理ですの?」 「回りの命を巻き込んで、自分の命かけても…五分五分か。リスクが高すぎますね。」 「それ、他の霊能者にもお坊さんにも神主にも言われました。」 たくさん、断られてたのだと言う。 「この子は何が憑いているのでしょう?」 「鬼、ですね。」 「ああ。それも皆さんそう仰られるんです。」 「本当にお力になれず申し訳ありません。」 写真の子供は無邪気な笑顔で立っている。 その写真を裏返しお返しした。
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