その壱

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その壱

私にはこの世に産まれ落ちることなく亡くなった水子の兄がいる。 貧血で目眩をおこし、風呂から上がった所でぐらりと視界が暗転し倒れた。 花畑で男の子と鬼ごっこをして遊んでいた。 その男の子を「お兄ちゃん」と呼んでいた。 自分達の後ろから、鬼婆が追いかけてくる。 鬼役が鬼婆なのだ。 その鬼婆に捕まったら大変なことになる。 そう思いつつも、花畑は美しく幸せな気分になる。 前を走るお兄ちゃんが 「こっちだよ。こっち。早く。」 綺麗な花の中を走るのは、頭がふわふわして楽しい。 お兄ちゃんと遊んでいるのも楽しい。 「あっちだよ。あっち。」 お兄ちゃんが私の手を取ると光の方向へと押し出した。 「じゃあね。バイバイ」 ウフフなんて楽しい……痛いっ。 頭が痛いし体が痛い、あと体がとてつもなく重い。 幸せな余韻に浸りつつ目を覚ますと、風呂場のタイルで仰向けに倒れていた。 頭と体が痛いのは倒れた時に体を打ったからだろう。 長い間、夢を見ていた気がしたが気絶していたのは5分か10分位だったのだろう。 花畑とは、よく聞く臨死体験の花畑なのだろうか。 この話を母にすると 「ああ、言ってなかったけど、あんたにはお兄ちゃんがいたかもしれなかったの。」と流産した話を聞いた。 あの時、お兄ちゃんが助けてくれなかったら、鬼婆に捕まってたら、もしかしたら死んでいたのかもしれない。 良かったとは、思ったのは マッパで死ななくて良かった。である。 うん。マジで。
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