その参拾七

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その参拾七

玄関に百福図を観音図と相対するように掛けた。 私の部屋は玄関の隣である。 ので、来客があるとまず、私の部屋の窓の前を通るのである。 すりガラスの向こう側 青いジャンパーを着たおじさんが、歩いていく。 車の音がしなかったので、近所のおっちゃんだろうか。 居間には親父殿がいるので、自分は出なくていいや。と、思っているが 一向にチャイムが鳴らない。 不思議に思い窓を開けて外を見た。 誰もいなかった。 玄関をつきっていけば、塀にぶちあたる。 飛び降りれない高さではないが、わざわざ人ん家をつっきて、塀を飛び越えて行ったんだろうか。 そんなことが度々続いた。 不運な事が続いたので、掛け軸を手放したくなった。 「この掛け軸いいね。」 と、言ってくれる方に 「真っ黒い怖い男の人が現れるか、もしくは夜中に綺麗な笛の音が聞けますけど、どうです?タダでいいですよ。」 と、言うと皆から 「いらない。」 と断られた。 ので、どんど焼きに持って行った。 これを書いてふと思ったのだが、末の子供が見たと言う怖いおじさんとは、家の前にうろついていたあのおっちゃんだったんだろうか。 掛け軸が目印となって、やって来るものだったかもしれない。 まあ、燃やしてしまったので、もう検証はできないが。
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