その参拾四

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その参拾四

高校生の時に、とある神社でポラロイドカメラで写真をとった。 そこは龍の(いわ)れのある神社である。 なんでも龍の彫刻の龍が夜な夜な抜け出して池で遊ぶという。 神主さんは、龍の彫刻に鎖を巻いた。 巻いても龍は抜け出して池で遊び、水浸しにするという。 そこで、別の神社の龍の彫刻と取り替えたら治まった。という。 その龍の彫刻をポラロイドカメラで数枚とった。 一枚目にはお賽銭箱に赤い丸が映っている。 二枚目には、さらにその赤い丸が色濃く血のような赤い色になっている。 三枚目は、龍の彫刻あたりから、金色の鱗のようなものがうねるように写っていた。 まるで、龍の彫刻から出て来ようとする龍である。 とある養成所に通っている時に、祖母が霊媒師だという子に写真を預けて見て貰った。 「これはね、非常にヤバイ写真。まず、この赤いのは警告。さらに赤くなってるから、かなり怒らせたんだと思う。それで、この金色の、おばあちゃんがこれは祓えない。てっ言ってた。」 「龍じゃないの?」 「わかんない。でも、ヤバイんだって。」 おばあちゃんは写真を手元に置いときたくないから、返すてっ、 と般若心経の経文と数珠つきで返された。 「あと、毎朝般若心経唱えろ。てっさ。」 「わかった。」 友人と会ったのはこれが最後となった。 彼女は遠くから通って来ていたので、会いに行きようがない。 養成所は週一だった。 辞めた。と先生から聞いて友人に電話をした。 「もしもし。」 彼女が電話に出た。 「久しぶり、元気にしてた?」 応答がない。 だが、電話は繋がっている。 移動中なんだろうか。 ずっと階段を上がっている音がする。 言葉はなく足音と彼女の息づかいしか聞こえない。 「もしもし。移動中?今、話せる?」 カツカツカツカツ。 ふぅふぅふぅ。 カツカツカツカツカツカツ。 「ねぇ、◯◯ちゃん?」 彼女の名前を呼んだら一切の音が消えた。 ケータイを耳から外して確認した。 通話中である。 もう一度耳に当て、呼び掛けてみる。 「◯◯ちゃん?」 やはり、なんの音もしない。 急に怖くなって通話を切った。 そのあと、彼女からの折り返しの電話は来なかった。 メールも送信したが、返事は返って来なかった。 写真は、そんなにヤバイものなんだろうかと当時流行っていた心霊番組に出してみた。 その写真が使われることもなかったし、連絡が来ることもなかった。 それから時が立ち、同期の結婚式の時に集まった友人達に聞いてみた 「◯◯ちゃん来てないんだね。」 「花嫁が招待を出したんだけど、返事すら来なかったらしいよ。」 「私も久しぶりに会いたくなって電話したけれど、繋がらなかった。」 皆もあの時教室で会って以来、連絡が取れない。という。 「その写真ね、おばあちゃんがお経をあげたら、数珠が破裂したの。だからさ、ヤバイんだよ。それ。それ持って電車に乗ってるとさ、いろんなモノが見えて気持ち悪かった。」 私はそれ以来、龍の彫刻に向けて写真を撮るのはやめた。
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