エピローグ

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エピローグ

「まったく、おまえってやつは」  ぐったりした瑠璃に向かって、駆けつけてきたポチ1号、県警の韮崎警部補が吐き捨てた。 「とんでもないビッチだな! 何をやらかすか、わかったもんじゃない!」 「いいでしょ。自分のおかげで事件、解決できたんだから」  店の隅のソファにもたれ、眠そうに瑠璃が言い返した。 「情報漏洩も、事件解決のためには必要ってことだよ。ポチだって、そう思うっしょ」 「ば、馬鹿、大きい声出すな。それに、ポチ呼ばわりはやめてくれ」  マスターは逮捕され、健斗と真帆は警察によって、無事、帰るべき場所へと送られた。  そして、私と瑠璃は、近所の救急病院に運ばれた。  でも、飲まされたのは睡眠薬で、薬を処方されると小一時間ほどで回復した。  今度こそ命の危険を感じた私だったが、とりあえずこうして事件は幕を閉じたのだ。    その後、別室で刑事たちにねちねちと事情を聞かれ、家に帰ったのは、夜の8時過ぎだった。 「ごめーん、遅くなっちゃった」  玄関口でわざと明るい声を出したが、返事がない。  きょうは日曜日で、夫は在宅しているはずなのに、どうしたことだろう。  慎吾とゲームにでも熱中しているのか。  そう思いながら居間をのぞいてみたけど、ふたりの姿はなかった。 「ねえ、ふたりとも、どうしたの?」  もしやと思って、寝室に足を踏み入れた私は、そこであっと息を呑んだ。  ベッドに白装束の慎吾が正座している。  サイドボードに、神棚のようなものが飾られていた。  その両脇に立つ、苦しげに口を開けた入れ子だるま。  そして、その中央に飾られているのは、緑色の髪の、瑠璃の写真…。 「まさか女とできてるなんてな」  壁にもたれ、腕組みをした慎一が言った。 「青山さんだったっけ? しかし、驚いたな。彼女の予言通り、おまえが不倫に走るだなんて…。こうなったらもう、あの女に聞いた呪いが効くかどうか、試してやろうと思ってさ」  予言?  青山佳代子が、私と瑠璃の仲を…?  それが、悪霊の力とでもいうのだろうか。 「やめて…」  全身の力が抜け、私はその場に座り込んだ。  ともあれ、露見してしまったことは、もう元へは戻せない。  苦い後悔の念が、胸の中で渦巻いた。  ここ1週間、傷ついた心を癒すために、この部屋で、私が瑠璃と何度も寝たこと…。  私が彼女を愛してしまったこと…。  それを、夫は知っている。  しかも、あろうことか、ダムに沈んだ今はなき馬頭村に伝わる、あの肉人形の呪いのことまで…。  ああ、そうだった。  あれが、きっかけだったのか。  ふとある匂いを嗅いだ気がして、私は一気に思い出した。  見慣れない鍋。  家じゅうに漂うシチューの匂い。  あれは、青山佳佳代子の家で嗅いだ、あの…。  三つ子の脳の一部でつくったシチューの匂いと、まったく同じものだったのだ…。
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