成功者

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「ご紹介に預かりました、髙橋 美津子と申します。鈴城先生からお話は伺っておりますよ、市ヶ谷 陽稀さんとおっしゃるのですね」 「あ、は、はい。よろしくお願いします」 「ええ、こちらこそよろしくお願い致します」  はきはきと喋る髙橋の外見は、30代半ばにしか見えない。若々しいのだと言われても、一生懸命想像して50歳くらいが限界だ。しかし鈴城の話によると、彼女はなんと91歳なのだという。  確かに、薄手のタートルネックに紫のカーディガンを羽織った姿は、服装だけ見れば年配に見えなくもない。冷房の効いた病院内とはいえ、季節を考えても、若い女性らしからぬ格好だ。  とはいえ鈴城の言葉だけで簡単に信じられるはずもなかった。ばかばかしいという感情ばかりがわいてくる。わいてくる。  そんな鈴城をよそに、髙橋は今までの経緯とやらを語り始めた。それはまったくもって、現実とは思えないような内容であった。 「私は去年まで、この病院に入院していました。年のせいで罹った関節症の手術をした結果、体が施術と麻酔に耐えきれず衰弱してしまったのです。なんとか死は免れましたが、それでも体は動かなくなりました」 「髙橋さんは半年ほど、植物状態だったんですよ。生きているのが奇跡という状態ではありましたが、それでも動いたり話したりすることは叶いませんでした。今の裕貴さんと同じようにね」  鈴城の補足に、陽稀は言葉をつまらせる。その反応を見逃さなかった髙橋が、視線を陽稀に向けた。 「よそのご家庭に首を突っ込むなど失礼千万ですが、鈴城先生からお話はお聞きしました。お兄様がご病気で臥せっていらっしゃるそうですね」 「・・・・・・はい」  どこまで話したのだろうという不安が頭をよぎる。この女性が人の不幸を言いふらすような性格には見えなかったが、鈴城と繋がっていると思うだけで疑心が膨れ上がった。
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