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「私はこのことを完全に失念しておりました。裕貴さんのクローン生成に遅れが生じることはありませんが、それでも事前にお伝えすることができず申し訳ありません」
口だけの謝罪を述べて頭を軽く下げると、鈴城は席を立つやいなやテーブルを回り込み、あっという間に陽稀の背後に立ってしまった。
「本当に申し訳ございませんでした、お父様、お母様。ただ、陽稀さんがもうこれ以上協力はしないと仰っていましたからね。今しかチャンスはないと、慌てて飛んできたわけなのです」
話すたびに吐息が首筋にかかり、鳥肌が立つ。
立ち上がって逃げようとした瞬間に、腰をがっちりと掴まれた。隣に座る両親は止めようともしない。
「裕貴さん、もう22歳でしょう?手術が成功して健康体になって動き回れるようになったら、きっと恋人をつくったりすると思うんですよね」
「な、ちょっ、何してんだよあんた──」
薄い部屋着のシャツから鈴城の手が侵入し、背中が直接なでられる。冷え切った指先に鳥肌がたった。その手がだんだん腰回りを這いながら腹へと進んでいき、腰回りを半周する。
恐怖と気色悪さに一気に体温が下がっていくのを感じた。声が出ないまま視界が潤んでいく。
助けを求めても無駄だと悟った。必死に鈴城の手をどかそうとするが、空いた方の手も同じように背後から腹に回され、抱きしめられるような姿勢になる。冷たい手は離れることなく、肌を擦り続けた。
鈴城の手が陽稀の下半身をなぞった。太腿を細い指にさすられ、思わず吐き気がこみ上げてくる。
「若い男が恋人とヤることといったら、ひとつですよ。そんなときにEDとかだったらかわいそうじゃないですか。子供作れなかったら、その後の裕貴さんの人生にも影響するでしょうし。ですから陽稀さんに、最後の検体を提供していただきたいのです」
──これのサンプルがほしいんですよ。お父様はもう年齢的に枯れてますから。
鈴城の甘ったるい声に、喉の奥で悲鳴を上げた。
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