対峙

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対峙

 息を呑むと同時に、陽稀はドアを勢いよく閉める。まだ手に持ったままの鍵を鍵穴に差し込んでまわそうとするが、動かない。向こう側から鍵をかけさせまいとロックを押さえているのだろう。  鈴城の力が意外と強いことに焦りつつも、両手で鍵をまわそうと力を込めた。  心臓が早鐘を打っていた。鈴城はまだ家にいたのだ。とっくに退散したのだ、と思った自分の考えが甘かったことに気づかされる。  両親は裕貴のクローンをつくってもらうことに全身全霊、そして全財産をかけているのだから、一縷の望みが逃げ出したとあっては気も休まらないだろう。考えてみれば、鈴城が追いかけてこなかったのが不思議なほどだ。彼もクローン生成に並々ならぬ執着を抱いている。  鍵が真ん中でへし折れてしまうのではないかと思うほど、互いの力は拮抗していた。だが、本能が鳴らす警鐘に突き動かされていた陽稀の方が、最終的には競り勝った。果てしなく思われた勝負の末についに鍵は小気味よい音をたてて施錠され、鈴城との間は埋められた。  それとほとんど同時に、軽い金属音が響いて開錠の気配がする。鍵を閉めたとはいえ、鍵の主導権を握っているのは屋内にいる鈴城なのだ。反射的に身を翻し、陽稀は逃げ出した。  背後でドアが開いた。3人分の気配を感じて振り向いたのがまずかった。  真ん中で薄気味悪く笑う鈴城と、その背後に佇む両親の姿がある。全員が、優しかった頃の面影をなくしていた。裕貴のクローン人間をつくるという共通の目標に支配された彼らが一斉に手を伸ばしてくる。  離せ、と叫ぼうとした声は、呑んだ息と一緒に消えた。抵抗のために手を出すよりわずかに早く、両親の手ががっちりと腕を掴む。年老いた老夫婦とは思えない強さだった。  陽稀は喚きながら拘束から逃れようとしたがびくともしない。恐怖と気色悪さで鳥肌がたち、吐き気を催した。
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