第12話

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第12話

 全体重を乗せて男の顔面を狙いサッカーボールキックをぶち込む。...失敗。男も流石に顔面を狙われるのは理解していたようだ。両手でしっかりとガードされてしまう。  男が立ち上がる。相手の右腕部分が不自然にブラブラと揺れているのを確認した。あれは多分骨折している。当然と言えば当然の話だ。足の力は腕の約3倍と言われている。これに加えて速度と体重の力も加えて俺は攻撃した。生身の腕で受け止めて無事で済むはずがない。  金髪の男と俺が正面から睨み合う。俺は今自分がどれだけ危険な状態であるかを改めて認識した。非暴力主義だの、他人を尊重しろだのと生ぬるい精神論は今この瞬間には通用しない。圧倒的な暴力の雰囲気が今この場には充満していた。  俺はもう理解していた。これは殺るか殺られるかの戦いだ。世界はもうぶっ壊れてしまっている。この世界では、暴力こそが真実なのだ。 「おらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」  シャベルを振り上げ、男の左腕を破壊する。痛みで悶絶していた男の背中をそのまま蹴り飛ばし、窓からマンションの外へと叩き落とした。男はガラスが皮膚に突き刺さった痛みに悶絶し、絶叫を上げる。だがそれは、破滅への入口だ。 「ひいっ!?や、やめろおおおお!!来るなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  生きのいい獲物に群がるかのように、ゾンビの大群が男に覆いかぶさった。体中の肉を引きちぎられ、内臓がめちゃくちゃになる音がこちらまで響いてくる。その光景を無感情のまま見ていた俺は、男が絶命したのを確認し、目的を部屋の探索へと変更した。  男の部屋は、はっきり言って異常な状態だった。壁一面に大小様々な形のナイフが飾られており、男や女の姿が映った写真がズタズタの状態で引き裂かれていた。あの男は、何かヤバい事でもするつもりだったのだろうか。  部屋を注意深く見て回り、使えそうな小道具などは回収する事にした。立派な窃盗行為だろうが、それを咎めるような警察組織は最早機能していないという事はラジオやネットの情報で仕入れている。今の日本は、言ってみれば無法地帯だ。法律なんてものは、もう俺達を守ってはくれない。自分の身は自分で守らなければいけないのだ。
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