07 オメガ

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 劉は椅子から腰を浮かした。そして拍子抜けする言葉を吐いた。「また遭うことにしよう、景宮 周。それまでに、もっと憎しみと絶望を溜め込んでおけ」  だが、悪魔がこのまま立ち去るはずがなかった。「ツトムは殺しておこう。オマエの憎しみと絶望が少しは積み重なるだろう」  刹那、シュウの頭から思考が消し飛んだ。跳ね起き、一条の矢のごとく劉に突進していた。  ストレートが顔面にクリーンヒットする。鼻柱の折れる感触が拳に伝わる。が、二発目は空を切った。  胸ぐらを掴まれて壁に叩きつけられた。すかさず抱えられ、受け身もとれない速度で逆落としを喰らう。  電撃のような激痛が首を(はし)った。  頚椎をやられた。手足が痺れて起き上がれない。もはや戦闘不能だ。   救命処置にナノが総力を挙げている。 「いいパンチじゃないか。まだ動けたとはな。それが憎しみの力だよ」自分の鼻をつまんでグキッ、と位置を戻す。  垂れた血をハンカチで拭った。折れた鼻よりも、血の滴った白いジャケットの方が気になるようだ。  鼻の骨折は、劉の高品質ナノマシンなら1時間ほどで治癒させてしまうだろう。その程度の傷しか与えられなかった。  悪魔は大の字になったベンケイに歩み寄る。 「実験体の役目は終わりだ。ツトム、ご苦労だった」右手を振り上げる。それは鈍色に輝く両刃剣に変形した。  仮想剣ではない。実体剣だ。劉のナノマシンは形状変化まで可能なのだ! 「やめろ!」シュウは叫ぶ。「なぜオレだけ殺さない?」  応えず、劉は鈍色の切っ先をベンケイの喉元に突き通そうと――  銃声が轟いた。  時田が片膝をつき、銃口を劉に向けていた。手首の拘束を外していたのだ。だが、呆然と目を見開いている。頭部に弾丸が命中したはずなのに、標的は何事もなく立っているからだ。  劉はこめかみ辺りに左拳を上げていた。拳が開かれると、掌に弾丸が載っている。着弾寸前の弾丸を掴み取っていた。 「そうそう、虫ケラがもう一匹いたのだったな。失念していた。弾丸(タマ)は返すぞ」左手が見えないほどの速度で振られた。  投げ返された弾丸が、発砲した男の手を貫通する。拳銃を弾き飛ばした。  ぎゃっ。時田は右手を押さえた。血しぶきが飛ぶ。
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