07 オメガ

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 ふ。劉の顔がとつぜん仮面のごとくのっぺりした。ふふふふ。作り物めいた顔が笑いだす。  あはははー。哄笑に変わった。とびきりのジョークを聞いたとでもいうように。 「そういうのを、ひきこもりの言い訳というのだ。無力なペテン師がぁ」光の結界に抗うように足を運ぶ。  強い抵抗に押し戻されるが、それでもジリジリ前進する。あの劉が額に汗を浮かべている。  光の女性まで、あと少し。 「エラそうにしやがって。オマエを(はずかし)めてやる。裸に剝いて股を開いてやる。泣いて後悔させてやる」  迫りくるケモノにもマザーの表情は動かない。その穏やかさは、強さでも蔑みでもない。たしかに、(ゆる)しているように見えた。それがケモノをますます憤怒させる。  劉は歯を剥いて咆哮した。  ケモノの爪が届く寸前、マザーは於女香(オメガ)と共に光の中へ溶けた。      遠い(ところ)へ行ってしまうのだ―― 「逃がさんぞぉ!」劉は追いすがる。縮みゆく虹色の光へ我が身を投じた。  ケモノに領域を侵された光は、身震いのように波紋を立てた。  ケモノを呑んだ後、光は急速に縮小する。閉じるように消え去った。  悪魔は居なくなった。すべて夢であったかのように。  ザコに構っているヒマなどない――そんな捨てゼリフが、エリアに残響している気がした。  蚊帳の外にされた男たちは、白けた空気の中、それでも安堵の息をついた。 「行っちまったな。あれが、伝説の劉か。なるほど、とんでもない化け物だ」時田が寄って来た。  弾丸が貫通した右手は血に染まっている。  左手首の腕時計からはノコギリ状の小刀がとび出していた。縛めを切断した仕掛け。特捜の秘密兵器らしい。 「ワケのわからん事ばかり続いて、頭がおかしくなりそうだ。世界は本格的に狂ってきやがった。思えば、ブラックホールが出現したあたりから狂い始めたんだな……」時田は傍らに屈み込む。「大丈夫かい、アンタ」 「ああ、パワーボム喰らっちまった。(くび)が折れてる」ゆっくり身を起こし壁にもたれた。 「まったく、アンタってヤツは。捻挫しました、くらいの言い草じゃねえか」時田は笑った。
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