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彼の余命はあと半年。その間、入退院を繰り返しながら私たちは同じ時間を共に過ごした。主に過ごすのは私のマンションの部屋だった。彼が病院と家を行き来しやすいように、私がロンドンの郊外に借りたのだ。
彼が私の前から消えてしまうことを思うと絶望的な気持ちになることもあった。でも、私以上に絶望と悲しみを抱えているのは他でもない彼だと分かっていたから、出来る限り彼の前では死についての話題は出さないようにした。
彼自身、私を悲しませないためか、前のようにくだらないセンスの悪いジョークを飛ばして、私が笑わないのを見て「たまには笑えよ」と突っ込んだ。すっかり痩せてしまったけれど、笑った時に細くなる目も、優しい眼差しも彼のままだった。
ある晩夜中にふと目を覚ますと、彼が目の前で正座して私の顔をじっと見つめていた。その目が余りにも悲しげで、明日にでも彼は旅立ってしまうんじゃないかと怖くなって彼に抱きついた。
「行かないで」
涙が溢れ咽び泣いた。堪え続けた感情が、一気に噴き出した瞬間だった。
「お願いだから、私を一人にしないで」
泣きじゃくる私を彼は抱きしめ、頭を何度も撫でた。半分になった彼の身体は薄くて骨ばっていたけれど、その手が余りに優しくて、もうすぐ死んでしまう人と思えないくらいに温かくて、余計に私を悲しくさせた。
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