月夜のアロエ

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 彼の家は店から歩いてすぐの場所にある、寂れた三階建てのアパートだった。彼は私を二階の真ん中にある203号室に招き入れ、飲み物を作るから寛いでいるようにと告げてキッチンに向かった。部屋に入ってすぐ妙な匂いがすると思っていたが、来る途中に彼が「通気口の奥でよく動物が死んでいる」と話していたから、それと思い疑わなかった。    彼は二人分のジンの入ったグラスをテーブルに置いて、自分の幼少期の話をした。彼には兄がいたが、勉強も運動も優秀な彼に劣等感を抱いていたという。  自分の話を粗方したあと、今まで誰かと付き合ったことがあるかと彼は私に聞いた。酒のせいか寂しさのせいか今となっては分からないが、この時の私は誰かにこの話をしたかった。
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