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別れる直前、彼に好きだと伝えた。彼は「君は僕の弟だ、恋愛対象じゃない」と答えた。余りにあっさりとした失恋だった。
だが私は諦めずに気持ちを伝え続けた。彼の答えは二年間同じだったけれど、何百回目か分からない告白に根負けしたのか、ある日遂にYESと答えた。
彼との日々は幸せだった。彼の住むアパートの部屋で一緒に料理を作り、彼の弾く出鱈目なピアノに合わせて即興の歌を歌った。そして夜、彼は私を優しく抱いた。
彼はベンジーいう雄のフレンチブルドッグを飼っていた。ベンジーは朝になるとベッドに乗ってきて、寝ている私と彼の頬を交互に舌で舐めた。彼から餌を貰ったくせに初めて食べるような顔で僕にご飯をねだりにくるものだから、トレヴァーは" Done"と大きくマジックで書かれたカードに紐を通して、餌をあげた後ベンジーの首にかけるというルールを作った。
ファッションセンスの皆無な彼の腕を引いて服屋に連れて行ったこともある。ちゃんとした服を着ればそれなりに見えるのに、放っておくといつもおかしな色のジャージやボタンの取れたシャツを着ていた。呆れながら、そんなところも愛おしかった。
彼の写真撮影のための旅行に付き合うこともあった。アフリカやブラジル、時にはグリーンランドまでーー。イルリサットの街の氷河のそばで珈琲を飲みながら彼と見たオーロラは、まるで宇宙がエメラルドグリーンのカーテンで覆われているようで壮麗だった。
彼と私はオーロラの下で踊った。彼のダンスはジョークと同じくらいセンスがなくて下手くそだったけれど、すごく幸せだった。
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